16年ぶりとなる続編が映画として製作された「Dr.コト―診療所」を見た。人気ドラマを見ていたであろう層に加え、配信などで新たに知ったと思われる若い世代の姿も劇場では見ることができた。
私は確認作業が一つあった。
それは、剛洋(たけひろ)が医者になっているかどうか。
島を出て東京の中学に進学した後、どういうプロセスを経て、コト―のような医者になり、島やコト―とはどういう関わりをもっているのか。
それを期待し、一番確認したかった。
映画「Dr.コトー診療所」あらすじ
日本の西端に位置する自然豊かな孤島・志木那島。19年前に東京からこの島にやって来たコトーこと五島健助は、島にたった1人の医師として島民たちの命を背負ってきた。島民とコトーとの間には長い年月をかけて築いてきた信頼関係があり、今やコトーは島にとってかけがえのない存在だ。コトーは数年前に看護師の星野彩佳と結婚し、2人の間にはもうすぐ子どもが誕生する。志木那島でも日本の他の地域と同じく過疎高齢化が進む中、島民たちの誰もがコトーの診療所があることに安心し、変わらぬ暮らしを送り続けていた。しかし診療所の平穏な日常に、ある変化が忍び寄っていた。
(引用 https://eiga.com/movie/97454/)
【ネタバレ注意】たけひろは変わっていない
手術室のような部屋で血まみれになって座り込むたけひろ。
そんな悪い夢に苦しみながら、たけひろは目を覚ました。
しかし、後に分かるがそれは夢ではなく、現実に起きたことだった。
登場のシーンだけでは、たけひろが医者になっているのかどうかはわからなかったが、患者の治療をする過程で血まみれになっているのは間違いなさそうだなと、医者になって苦労していると思いこまされた。
島に帰って来たたけひろは、どこか不安気で、何か重たいものを背負っているよう。
その様子は、医者を目指したいと父親に言い出す前のたけひろそのものだった。
たけひろは、変わっていない。
しゃべり方も変わっていない。
まるでドラマの中で、私たちと同じように歳を重ねたようで、連ドラを見ていた人たちは、きっとたけひろが生きた時間と同じ時の流れを感じられたんじゃないだろうか。
変わっていないように見えるたけひろだったが、実は大学の医学部を中退していた。理由は、学費の問題だった。
このシチュエーションは、まさにコロナ禍、景気停滞の日本において、たけひろだけでなく多くの学生が見舞われている現実だと思う。
緊急事態宣言発出で飲食店は休業し、アルバイトができず経済的に不安定になる。そこに、物価高騰で、学生のみならず私たちの暮らしへのダメージは大きくなっている。
お金がないからという理由で、医者になりたいという夢をあきらめざるを得ない現実。その事実を知ったとき、父親の漁師・剛利(たけとし)が勝手に中退をしたたけひろを怒るはずもなく、謝ったのはあまりに辛過ぎた。
離島が抱える医療の問題
映画の中でたけひろが島に戻り、コト―といっしょに診療所を守る未来を想像していたが、そんな明るい話しではなかった。
台風が島を襲い、土砂崩れが発生する。
けが人が次々に診療所に運び込まれるが、頼りのコト―は急性骨髄性白血病を患い、治療に当たれる状態ではない。それでも、気力を振り絞って命を救うために治療を続ける。
コト―の自己犠牲が過ぎるというか、次から次に難題が訪れ、見ていて辛いシーンがあり、息苦しくなるほどだった。
離島の僻地での医療の難しさを感じたけれど、映画の中ではコト―ら医療関係者と地域住民の絆があふれ、人のつながりや優しさが強く感じられた。
自分の命を犠牲にしてまでも、誰一人死なせないという強い信念を持って医療現場で闘うコト―は、スゴイとしか言いようがない。フィクションかもしれないが、日本のあちらこちらで同じような現実が今もあると思う。映画の中の話しは特別なことなんかではなく、日常的にそういう危機を抱えている地域があるとしたら、この映画は地域医療への対策の在り方に一石を投じる作品になるんだろうなと感じた。