前略 加賀美じゅんさま
今、世界中の人々が外出を自粛し、ウイルスと闘っています。テレビをつければ新型コロナウイルスの情報ばかりで、気が滅入ってきます。
ふと、気晴らしにと思い、公開当時から気になっていた作品「家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています」をアマゾンプライムで観ました。
奥さまのちえさんへの愛とちえさんのあなたへの愛があふれた作品に気持ちが温かくなりました。こういう時だからこそ、そばに居る人を、一番大切にしたいですね。
映画「家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています」あらすじ

2010年に「Yahoo!知恵袋」に投稿されて話題を呼び、ボーカロイドの初音ミクでオリジナル楽曲が制作されたほか、コミックエッセイ化など、さまざまなメディアに広がりをみせた、妻の「奇行」についての質問をもとにしたラブコメディ。
結婚3年目のサラリーマンのじゅんが仕事から帰宅すると、玄関で妻のちえが血を流して倒れていた。じゅんはあわてて介抱するが、血はケチャップで、ちえは死んだふりをしていただけだった。
妻はその理由は言わず、ただ笑うだけ。
それ以来、ワニに食われる、銃で撃たれる、頭に矢が刺さっているなど、毎日のように死んだふりをする妻に、じゅんは呆れながらも徐々に不安を覚えるようになる。
自分が安田顕さん演じる加賀美じゅんだったら
この映画の面白さは、榮倉奈々さんが妻を演じて、ワニに食べられたり、戦国時代の落ち武者になったり、15パターンの“死んだふり”を熱演し、安田顕さん演じる夫が困惑するリアクションだ。
妻のちえさんの奇行にどこまで付き合えるだろう。妻が榮倉奈々さんかどうかは置いといて、現実の話しに置き換えて考察してみる。
多くの夫がじゅん同様に、まずは驚き、「どうした?」「なんで?」と妻にその理由を問い続けるだろう。それくらいに、はっきり言って、「死んだふり」を毎日毎日繰り返されると、いろいろなことをこっちが考えてしまう。
「何か言いたいことがあるんだろう…」
この答えを導き出すために、自問自答と妻の行動に込められた真意を探り続ける。結局は、何もわからず、妻への苛立ちが募る。(オレにヤマシイところがあるのか…)
「何なんだ!言いたいことがあるなら、言えよ!」
この映画を観ながら、始めは笑っていられたが、ちえが「死んだふりを」続けることに、じゅんの立場に立つと、こんな不思議ちゃん的な妻を持つとたいへんだな、、、と同情する。
なのに、ラストにはちえのことを、愛おしく思え、じゅんとちえの夫婦がこのまま愛し合い、幸せでいて欲しいと願っている。
その理由は、この夫婦は絆でつながっているからだ。
相手を想う気持ちがとてつもなくおっきい。
好きとか、キライとかではなく、大切に想っている。
図らずも、ウイルスでたいへんなこのタイミングに、観ることができたのはラッキーだった。夫婦や、家族をより一層大切にしたいと思わせてくれた。
榮倉奈々の演技に愛おしくなる
榮倉さんが演じるちえは、どこか謎を抱えたような印象を受ける。「死んだふり」をする理由を、夫のじゅんだけでなく、観ている私たちも知りたいと見続けるのだが、なかなかその心情を掴むことができない。
他人に無類の優しさを見せる反面、夫のじゅんは軽くあしらう。単純に夫をバカにしているだけのようにも見えるが、時々見せる淋しそうな表情に、じゅんに何か秘密があるのか…とかいろいろと考えさせられる。その答えに近づくのが、ちえの父親が倒れ、ちえの実家に泊まった時だ。

じゅんは、ちえの部屋の教科書を見る。夏目漱石のページを見ると「月が綺麗ですね」という言葉が見つかる。
「月が綺麗ですね」というのは、夏目漱石が英語教師時代、ある生徒が「I love you」の一文を「我君ヲ愛ス」と訳したのを聞き、それに対して「日本人はそんなことは言わない。月が綺麗ですね、とでもしておきなさい」と言ったという逸話から、いままでちえが「月が綺麗ですね」とじゅんに言っていたのは、「I love you」と同義だったのだと気付かせてくれる。
この瞬間に、わたしは鳥肌が立ちました。そこまでのモヤモヤした感情や、この映画何が面白いんだという疑問が吹っ飛びました。
そして、じゅんがプロポーズをした時のちえの返事も「月が綺麗ですね」だったことを思いだし、夏目漱石がこの映画の鍵だったことを知る。スッキリ!
この後で、じゅんとちえはプロポーズの場所へ行き、じゅんはちえに「死んでもいい」という言葉を捧げる。ここでちえは、自分の想いにじゅんがやっと気付いたと感じる。そして、じゅんはちえの耳もとで、なぜ死んだふりをしていたかについて話して聞かせる。実際に、私たちはじゅんの分析を聞くことはできないけれど、ハッピーエンドで終わるこの演出とここまで引っ張り続けた榮倉さんの演技にストーンと胸をなでおろすことができた。
榮倉さん演じるちえの無邪気な笑顔と純朴なまなざし。「ひたむきに大切な人を想う」ことの愛おしさを改めて教えてくれるいい作品だ。外出自粛中にオススメの映画だ。